【おちょやん】のヒロイン・千代(杉咲花・モデルは浪花千栄子)の女優への道を厳しく見守る女座長・山村千鳥(若村麻由美)のキャスティングがなされています。
この山村千鳥のモデルは浪花千栄子さんにも大きな影響を与えた女優のひとり、村田栄子さんとされています。
今回は、女座長のモデル・村田栄子さんについて探ります。
【おちょやん】のモデル村田栄子さん|一座立ち上げまでの経緯
村田栄子さんという方はたいそうヒステリックで、何か気に入らないことがあると、物を投げつけたり蹴とばしたりとかなり乱暴な方だったようです。
「ときおりとばっちりを受けて、一度、階段から突き落とされたことがありました」と、浪花千栄子さんも後に語っていらっしゃいました。
さて、村田栄子さんとはどんな方だったのでしょうか。
村田栄子さんの出身は?
村田栄子さんは、1890年(明治23年)10月12日に生まれました。
母方の祖父は、林靏梁(はやしかくりょう)という、大変有名な江戸時代の学者さんでした。
貧しい人々を助けるのに力を尽くした、立派な人物との記述があります。
また、母方の祖母は、なんと江戸城の大奥に勤めていたのだそうです。
すごく良いお家柄のお嬢様だったんですね。
結婚に失敗し、家を飛び出す
村田栄子さんは、1907年(明治40年)年、17歳の時に台湾在住する医師と結婚し台湾に渡ります。
しかし、夫や姑とうまくいかず、3年ほどの結婚生活の後、1910年(明治43年)5月に日本へ帰ってきてしまいます。
そして、そのまま離婚してしまったそうです。
「何もかも忘れて、もう一度新しく芽吹きたい」、村田さんはそう心に決意します。
そして家を飛び出すと、なぜか女優を目指したのだそうです。
苦労の連続を耐える

旅回り一座のイメージ画像
「今になって見れば、真面目に引っ込んでいた方が気楽だったと思います」と、村田栄子さんはのちに語っています。
村田さんは、まず『俳優学校』の近藤という人の支援で初舞台を踏み、劇団と共に地方を興行して回ります。
明治後期から大正にかけての庶民の娯楽は、都会では『活動写真(映画)』地方では『芝居』が盛んでした。
テレビはもちろん、ラジオの普及もままならない当時、地方を巡業する劇団がひしめき合っていました。
そんな中、この村田さんの所属する劇団が、東北のとある田舎でいきなり解散してしまいました。
何のつてもないままに世間に放り出された村田さんは、お金がないためやむを得ず芸者になるのでした。
そこから苦労に苦労を重ねます。
新人女優として注目される
村田栄子さんが脚光を浴びたのは1914年(大正3年)のことでした。
当時、『新日本劇(しんにほんげき)』の新人女優として活躍していました。

当時人気女優の松井須磨子さん。村田さんも芸術座時代に共演するが須磨子とケンカし追い出される。
小説家として知られている徳田秋声(とくだしゅうせい)さんはその公演を見て、「村田栄子が一番の出来であった」と、感心していたそうです。
その間に、劇作家として当時人気のあった門脇陽一郎(かどわきよういちろう)さんと結婚しました。
やがて村田さんは独立し、自分の劇団『村田栄子一座』を立ち上げます。
場所は、京都の『三友劇場(さんゆうげきじょう)』、時は1916年(大正5年)頃のことでした。
【おちょやん】のモデル村田栄子さん|浪花千栄子さんとの出会いと別れ
浪花千栄子さんが村田栄子さんの劇団に入ったのは、1926年(昭和元年)頃のことでした。
浪花さんの手記には、村田さんの事を「毛並みの良い新しい芸風の、名女優と言われている人…」と、書かれています。

若かりし頃の浪花千栄子さん
浪花さんが弟子に加えてもらった時には、村田さんはすでに35歳、当時としてはご年配の領域でした。(当時の平均寿命は50歳前後)
しかし、『舞扇(まいおうぎ)』という、村田さんの十八番(おはこ)の劇では、祇園(ぎおん)の10代の舞子さんに扮した村田さんが登場すると、満場一斉に「ほおーっ」という感嘆の声が上がったそうです。
浪花さんはその光景を目の当たりにし、はじめて演技というものの本質を見せられたと、後に語っていらっしゃいます。
ちなみにこの『舞扇』という劇は、夫・門脇陽一郎さんが脚本を書いた作品でした。
それを一番得意としていた劇というのですから、夫婦仲の良さもうかがい知れるエピソードですね。
地方巡業にて倒れる
村田さんは、最後まで自分の一座で地方巡業を続けていました。
ある日の事、金沢市にあった『帝国座(ていこくざ)』で、十八番の『舞扇(まいおうぎ)』に出演中に倒れてしまいます。
そして、そのまま泊まっていた旅館で亡くなってしまうのでした。
1927年(昭和2年)12月16日、まだ、37歳の若さでした。
滴(したた)る女優・・・
村田さんが自らを書いた本に『私の半生(わたしのはんせい)』があります。
そこで、「おしゃべりの、癇癪(かんしゃく)もちの…」と、自分のことを語っています。
確かに、浪花千栄子さんの言うように、エキセントリックな人だったのかもしれません。
しかし、その本の前書きに、ある人物がこう書いています。
「一言にして評すれば、村田栄子は『滴(したた)る女優』である」
まさに、美しさ艶やかさがあふれんばかりに満ち満ちている、そんな女優さんだったんですね。
【おちょやん】のモデル村田栄子さん|まとめ
村田栄子さんの情報は残されているものが少なく、想像の範疇にはなりますが、美しく、艶やかさがあふれんばかりの、そんな、稀有な女優さんだったことは間違いないでしょう。
本編では、村田栄子さんをモデルとした『女座長・山村千鳥』を、女優・若村麻由美さんが演じます。
若村さんもまさに『滴る女優』の筆頭とも言える方です。女座長・山村千鳥に超期待です~♬