「アンパンマン」は今や国民的キャラクターですが、誕生秘話はよく知らないという方が多いのではないでしょうか。
なぜやなせたかしさんは「自分の顔を差し出すヒーロー」を生み出したのか、本記事では誕生秘話とともに、やなせさんの想いを紹介します。
🔳アンパンマン自身の誕生秘話
アンパンマンは、いのちの星がパン工場に降り立った奇跡から誕生しました。
このエピソードは、1988年に放送されたアニメ第1話「アンパンマン誕生」で描かれています。ジャムおじさんとバタコさんは理想のパン作りに奮闘していましたが、納得のいくものができずにいました。
そんな折、夜空からいのちの星が降り注ぎます。その星の1つがかまどに落ち、そこから生まれたのがアンパンマンでした。「ぼく、アンパンマンでちゅ」という愛らしい赤ちゃんアンパンマンを見たジャムおじさんとバタコさんは大喜び。
アニメ第1話では、アンパンマンの誕生だけでなく、いのちの星を追いかけてやってきた卵から生まれた赤ちゃんのばいきんまんも描かれています。
2人の誕生により、アンパンマンとばいきんまんの物語が始まることになりました。
🔳「アンパンマン」誕生の背景
「アンパンマン」の誕生には、作者・やなせたかしさんの戦争経験と食糧難の記憶が深く関わっています。
やなせさんは21歳から26歳までの5年間軍隊に所属し、戦中・戦後の空腹の苦しみを身を持って体験しました。
このつらい経験から「人生で最もつらいことは食べられないこと」という考えを持つようになります。
50代までヒット作に恵まれなかったやなせさんは「食べ物が向こうからやって来たらいいのに」と願っていたそうです。この思いが、「困っている人に食べ物を届けるヒーロー」という「アンパンマン」の誕生につながりました。
アンパンマンの原型は、1970年に知人の子どものために描いた「アンパン君」というキャラクターです。
このイラストが好評だったことがきっかけとなり、やがて1973年に絵本『あんぱんまん』が誕生。1988年のテレビアニメ放送へと続いていきます。
🔳アンパンマンに込めたやなせの人生哲学
やなせさんは、アンパンマンを通じて「本当の正義とは何か」を世間に問いかけています。
やなせさんは自身の戦争体験や弟の戦死、その後の食糧危機を通じて、平和の大切さを痛感していました。
やなせさんの『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)には、敵を力で倒すのではなく、お腹を空かせた人に顔を与え、自らを犠牲にして他者を救うアンパンマンの自己犠牲の精神が綴られています。
ばいきんまんに対しても悪者と決めつけず、イタズラ行為を非難しています。
アンパンマンのこのような姿勢は、「本当の正義はかっこいいものではなく、傷つくものである」というやなせさんの信念を反映しているものです。
アンパンマンは単なる子ども向けの作品ではなく、やなせさんの人生観、価値観を凝縮した物語なのです。