「正義の味方」と聞いて、誰もが思い浮かべるであろう国民的ヒーロー、アンパンマン。その姿には、作者であるやなせたかしさんの正義に関する奥深いメッセージが込められていることをご存じでしょうか。この記事では、アンパンマンの背景にあるやなせたかしさんの想いについて探ります。
🔳アンパンマンの“正義”「倒すよりも助ける」
アンパンマンの“正義”とは、敵を倒すことよりもまず困っている人やお腹が空いている人を助けることを優先する、他者に寄り添う優しさそのものといえます。一般的なヒーロー像は、悪者を倒して勝利を収めるものです。しかし、お腹を空かせた子に自分の顔の一部を分け与える姿は、自らを犠牲にしてでも他者を助けるというやなせたかしさんの正義観を反映しています。
アンパンマンが初めて登場した当時、多くの否定的な声が上がりました。自分の顔を食べさせることを残酷だと感じる人もいれば、みっともない主人公では人気が出ないと考える人もいたそうです。しかし、子供たちはアンパンマンの行動に心を動かされ、次第に支持が広がっていきます。アンパンマンの自己犠牲と思いやりを通じて他者を助ける正義は、現代社会に必要とされる価値観になったといえるでしょう。
🔳やなせたかしの考える“正義”観が生まれた背景
やなせさんの正義観は、戦争での過酷な体験から生まれました。第二次世界大戦中に兵士として従軍し、やなせさんは食料が極端に不足する状況を経験します。重たいものを持ち続けることや寝不足の状態よりも、空腹が何よりもつらかったそうです。そのことから「正義とは悪を打ち倒すことではなく、まずは飢えや苦しみを取り除くことが先決である」という考えに至ります。
アンパンマンが自らの顔をちぎって人々に与える姿は、やなせさんの正義観を形にしたものだったのです。アンパンマンがときにバイキンマンとの戦いを中断してでも、空腹で苦しむ子に自分の顔をちぎって与える姿は、やなせさんの戦争中の飢えから学んだ「悪を倒す」よりも「飢えた人を救う」ことこそが真の正義という考えを反映した結果といえます。
🔳アンパンマンに託した“ヒーローのあり方”
やなせさんは、自分を正義だと決めつける危険性を避け、相手を傷つけず、味方として寄り添う姿勢が正義と考えていました。やなせさんは戦時中「聖戦」と信じていた行為が、敗戦後「侵略」と評価が逆転したことから、正義の押しつけが紛争を生む原因になると考えるようになりました。
さらに多くのヒーローは悪を倒すことを目的としますが、アンパンマンはバイキンマンを倒すのではなく、撃退するだけです。これは「誰かを殺したり、排除したりすることが正義ではない」というやなせさんのメッセージを示しています。そして空腹の子や仲間たちを助けるシーンでは常に「味方であること」を優先し、自己犠牲を厭わない優しさこそ正義であることを私たちに教えてくれます。
敵を倒すことよりも共存を選び、自己主張よりも他者への配慮を優先するやなせさんの正義観は、アンパンマンを通して今なお多くの人々に影響を与えているといえるでしょう。